突然ですが、あなたは「知り合いの運送会社に監査が入ってナンバープレートを持っていかれちゃったよ」なんて耳にしたことはありませんか?
ひょっとすると、あなたは運送会社の経営者で、監査に怯える日々を送ったりしているかもしれません。
ちなみに私がドライバー時代は、会社のインタンクで給油していたのですが、たまに軽油じゃなくてA重油が入っていたりして、しょっちゅう監査が入っていました。
誤解のないよう追記しますが、その会社は現在では代替わりしており、今では健全な経営をなさっております。
では、そもそも監査とは何でしょう?
あなたは、重大事故を起こすと監査が入るくらいの認識でしょうか?
それとも、運が悪いと監査がやってくるといった認識でしょうか?
ここでは、自動車運送事業における監査について、基本方針から種類、監査対象、はたまた監査の重点事項をできる限り分かりやすく解説していきます。
先ずは一読してください。
これを読むことによって、監査の全体像を掴み、漠然とした不安要素として無駄に怯える日々を過ごさなくなることをお約束します。
尚、コチラも合わせて読むことで、より一層理解が深まります。
それでは確認していきましょう。
Contents
監査の基本方針
そもそも監査をする目的とは何なのでしょう?
一番の柱として挙げられるのが輸送の安全の確保を最重要事項としています。
その輸送の安全の確保とは具体的に
- 運行管理者の選任
- 整備管理者の選任
- 点呼の実施
- トラックの定期点検整備
以上のものを挙げています。
また元請事業者の下請事業者に対する輸送の安全の確保を阻害する行為の排除も視野に入れています。
「実際に運んでるのは下請けだから」と不当な輸送を強いていたり、強いられているのを防ぐことも目的とされます。
場合によっては”下請法”にも抵触してきます。
親事業者の下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を規制する法律。
監査の種類
監査には3種類あります。
特別監査
トラックにおける事故があった場合、又は法令違反との疑いがあり厳格な対応が必要と認められる事業者に対して行われる監査を指します。
全般的な法令遵守状況を確認します。
一般監査
特別監査に該当しないもので、街頭監査を発端として行われる監査を指します。
重点事項を定めて法令遵守状況を確認します。
街頭監査
街頭において事業者を特定せずに行われる監査を指します。
いわゆる抜き打ち検査となりますが、ここで疑われると一般監査の対象になります。
監査と巡回指導の違い
よく監査と巡回指導をゴチャ混ぜに考えられがちですが、違いを表にまとめてみました。
監査 | 巡回指導 | |
事前通告 | 無し | 有り |
処分 | 有り | 指導のみ |
実施機関 | 運輸支局 | トラック協会 |
巡回指導なら指導のみで処分は受けないから大丈夫などと思わないでください。
トラック協会と運輸支局は密接な関係にあり、状況により通報の可能性もあります。
監査対象事業者
では、どうすると監査の対象となってしまうのでしょう?
法令違反の疑いがある事業者
あなたは「疑いがあるって誰の判断?」と思うでしょう。
ケンカして辞めたドライバーや競合他社などからの通報が多いかと思います。
また”適正化事業実施機関”という機関より、巡回指導員による巡回の結果等で判断されます。
適正化事業実施機関とは?
全日本トラック協会を頂点とする、都道府県トラック協会に設置される機関。
トラック運送事業の適正化に取り組むのが主な目的。
活動内容としては、巡回指導・街頭パトロール・苦情処理・各種講習会の実施等
ドライバーが死亡事故を起こした場合
これに関しては言うまでもないでしょう。
監査の基本方針である”輸送の安全の確保”が守れなかったということになりますからね。
ドライバーが悪質な違反をした場合
あなたは「悪質とはどの程度を指すの?」と思ったはずです。
具体的には
- 酒酔い運転・酒気帯び運転
- 過労運転
- 薬物等使用運転
- 無免許運転・無資格運転
- 無車検運行・無保険運行
- 救護義務違反(ひき逃げ)
が挙げられています。
注意点は”違反を起こした場合”もしくは”違反を引き起こしたと疑われる場合”とされています。
拒否した場合
当然あなたは「何を拒否した場合?」と疑問を持たれるでしょう。
具体的には、行政処分を受けて事業改善報告を命じられた業者で、報告をする出頭の拒否・改善報告をしない・改善されたと認められない場合です。
その他にも適正化事業実施機関が行う巡回指導を拒否した場合を指します。
法令違反の疑いがある場合
都道府県公安委員会・都道府県労働局・道路管理者等からの通知や通報によって法令違反の疑いがある場合です。
例えば、ドライバーに休日を与えない等の労基法違反であったり、ひき逃げ・当て逃げをした場合等が考えられます。
福利厚生が整っていない場合
会社負担となるから出費を抑えたい気持ちも分かりますが、それで生活している社員の身にもなってほしいものです。
- 労災保険
- 雇用保険
- 健康保険
- 厚生年金
主に上記が挙げられますが、通報によって簡単に発覚し監査対象となります。
また最低賃金を下回るような雇用も通報により監査対象となります。
同一の事故を3年で3回引き起こした場合
”比較的重い事故を引き起こした場合、事故報告書を本拠の位置を管轄する運輸監理部長又は運輸支局長を経由して、国土交通大臣に提出しなければならない。”
と、自動車事故報告規則というものに定められています。
この事故報告書に記載する”事故の原因”及び”事故の種類の区分”が同一であるものを3年間に3回以上引き起こした場合は監査対象となります。
では、どういった事故内容なのでしょう?
- 転覆・転落・火災を引き起こした場合
- 鉄道車両と衝突もしくは接触
- 十台以上の自動車の衝突又は接触を生じたもの
- 死者又は重傷者を生じたもの
- 十人以上の負傷者を生じたもの
等が挙げられます。
事故報告書に起因する場合
先述した事故報告書に以下の場合が含まれる場合。
ア 所定の期限までに報告書等を提出しなかった事業者
イ 報告書等に虚偽の内容を記載した疑いがある事業者
ウ 報告書等に記載された内容に法令違反の疑いがある事業者
これらも監査の対象となります。
長期間監査を受けていない場合
あなたは「定期的に受けるって健康診断じゃないんだから」とも思われるでしょうが、監査対象の一つとして挙げられているのです。
しかし、適正化事業実施機関による巡回指導があった場合やGマークを取得していると除外となります。
こんなマークを見たことはないですか?
監査に優遇されるなら取得しておきたいものですよね。
安全管理体制が整っていない場合
事業開始後に一般貨物自動車運送事業の許可要件を満たしていない場合等を指します。
- トラック保有台数
- 休憩施設・睡眠施設の整備
- ドライバーの勤務時間の設定
- その他過労運転を防止するのに必要な措置
- 運行管理者の有無
これらが守られていないと監査の対象となります。
受委託者に法令違反の疑いがある場合
あなたは「受委託って何を?」と思ったでしょうが、点呼やアルコールチェックを国土交通大臣の許可を受けた業者に受託させることができるのです。
その受託業者に法令違反の疑いがある場合ということを指しています。
その他必要と認められる場合
どういった場合を指すのでしょう?
- 監査を受けた後に重大事故を起こし、行政処分を受ける前に車両を移動させた場合
- 呼び出し指導の対象になっても正当な理由なく応じない場合
- 行政処分等を受けた際に、事業の改善状況の報告を命じられた場合
- その他事故、法令違反、事件、苦情等の状況を勘案し、監査を行うことが必要と認められる場合
となります。
監査の実施方法
優先順位
優先順位という程の順位付けではありませんが
- 重要な法令違反の疑いがある事業者から優先的に実施する。
- 社会的影響が大きい事故又は違反が発生した場合には速やかに実施するものとする。
- 適正化事業実施機関からの速報があった場合には、その趣旨に留意して実施するものとする。
としています。
実施方法
臨店による監査
営業所に立ち寄って実施されます。
原則としては無通告で臨店監査となります。
呼出による監査
事業の代表者を地方運輸局又は運輸支局等へ呼び出して実施されます。
行政処分等を受けた際に、事業の改善状況の報告を命じられた事業者は、行政処分等を行った日から原則として3か月以内に実施され、これに該当します。
監査の重点事項
基本的には以下の8点に重点を置いています。
- 事業計画の遵守状況
- 運賃・料金の収受状況
- 損害賠償責任保険(共済)の加入状況
- 自家用自動車の利用、名義貸し行為の有無
- 社会保険等の加入状況
- 賃金の支払い状況
- 運行管理の実施状況
- 整備管理の実施状況
重点事項とは別に、必要に応じてその他の項目も実施されます。
まとめ
あなたは「なんだそんなものか」と思うよりも「そんなに気をつけなきゃいけないの?」と思ったのではないでしょうか?
日々の業務に追われ、面倒な帳票類は疎かになりがちなのは理解できます。
もしかしたら「まわりもそんなに全部こなしていないよ」とあなたは思うかもしれません。
営業形態によっては、なかなか全てをキッチリするのも難しいとも思います。
叩けば埃が出る業界と揶揄される運送業において、法令を全て守れているのは大手企業だけかもしれません。
じゃあ中小企業であれば本当に仕方がないことなのでしょうか?
あなたの努力次第では各種帳票類はキチンと対策できるのではないでしょうか?
あなた一人で全てをこなすのは無理だとしたら、全従業員で取り組むということも可能ではないでしょうか?
偉そうなことを言って申し訳ありません。
ただ、やはりどうにも困難な課題があるのも分かります、特に労基関連は。
そこは一人で悩まず、同業の取引先等に状況を確認するのも手だと思います。
また専門家の方に相談するという選択もあるかと思います。